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きまぐれの音

きまぐれの音

映画 永遠のマリア・

【映画】 永遠のマリア・カラス

2003.9.2  2002年 伊・仏・英・ルーマニア・スペイン合作

○ストーリー

不世出の天才ソプラノ、マリア・カラスの最晩年のひとときを巨匠ゼフィレッリ監督が実に暖かい包み込むような愛おしむような心と視線で織り上げた伝説のディーヴァ・ストーリー。

オナシスに捨てられ、かつての美声も枯れ、マリア・カラス(ファニー・アルダン)は失意と絶望のうちにパリ16区の瀟酒なアパルトマンで隠遁生活を送っていた。

眠れない夜に自分の全盛期のレコードをかけオナシスとの写真を眺めては涙し、酒と煙草と催眠薬の生活が続いている。

そんな彼女ののもとに現れたのはかつての仕事仲間のラリー(ジェレミー・アイアンズ)だった。
彼は全盛期のマリアの録音を使って《カルメン》のオペラ映画を作ろうと持ちかける。

ラリーはゲイである。ド・ゴール空港で出会った美声年の画家マイケル(ジェイ・ローダン)と恋に落ちる。マイケルは耳が少し不自由で右耳に補聴器を付けているが音楽に対する感性は鋭い。耳の治療をしたあとに初めて母から聞かされた曲がマリア・カラスであり、アトリエでも彼女のレコードを掛けている。

はじめはラリーの申し出に激怒したマリアだが、ボーイフレンドが出来たことを話してマリアの気が緩んだことから、ラリーの話に耳を傾けるようになった、やがて説得されるうちに消えかけていた芸術への情熱が蘇る。

出演が決まるや否や、誰よりも熱心に仕事に打ち込むマリアには監督さえ音を上げるほど。マリアも参加してオーディションで選ばれたホセ役の美声年マルコ(ガブリエル・ガルコ)は、圧倒的な存在感のマリアに恋をするがマリアはそれが憧れであって本当の恋ではないのを自覚しマルコを遠ざける。

ラリーはマイケルを愛おしく感じ多忙を縫ってひとときの逢瀬を楽しんでいた。ある時マリアをマイケルの部屋に案内する。マイケルは「あなた自身を思って描いた」という赤を基調とした波のような作品と
「あなたの演じた歌劇《ノルマ》を思って描いた」というブルーを基調に神の光が降り注ぐような構図の作品をマリアに見せる。素直に感動するマリア。仕事の充実と友情とそのボーイフレンドの感性に触れ、心から幸せそうな表情のマリアだった。

そうして完成したカルメンは試写会でも大成功。本人も感激するが、ふと自分に戻ったマリアは、演技と合成の声で作られたこの作品を本物ではないと強く自覚する。

大ヒット間違いないと大はしゃぎする関係者とラリーはすでに2作目として《椿姫》を提案する。しかしマリアは《トスカ》を自分の声でやりたいという。
しかしどうあがいても声は出ないのである。ラリーは独り関係者と戦うが、その立場も理解したマリアは「もういいの」と寂しげに言う。そのかわりに《カルメン》を世に出さないでと懇願する。

全てを呑み込んで了解したラリーを誘い静かに散策の時間を過ごすマリアたち。ラリーのもとからはマイケルが旅立ってしまったのだ。「私たちは仕事だけに生きてしまった。普通に生活してれば幸福を得たかもしれないわね」。そしてマリアは穏やかな笑顔を残してラリーから遠ざかる。手には最後にマルコからプレゼントされた薄いピンクの薔薇1輪。それがマリアの最後の微笑みだったかも知れない。時を経ずしてマリアは亡くなった。

○感想

アパルトマンのセットはプロダクション・デザイナーのブルーノ・チェザーリ(ラストエンペラーでオスカー受賞)による凝ったもので実際にマリアのアパルトマンにたびたび行ったことがあるゼ監督がそっくりで驚嘆したそうだ。
いささか装飾過剰とも思えるほど豪華な部屋だが、それもそのはずでジョルジュ・ピエールという劇場のセット・デザイナーがマリアの部屋をデザインしているのだ。部屋でのひとつひとつのシーンが舞台のようであるのはもっともだ。バカラのグラス、セーブルのコーヒーセット、ワインボトル、クリストルフのキャンドルスタンドなどいちいちため息が出た。

アパルトマンでの1シーン。ある夜、マリアがレコードでオペラ蝶々夫人からアリア”ある晴れた日に”をかけ、流れる声の1オクターブ下で低く声をつぶやかせ、懐かしい日々と今の境遇に思いを馳せて独り泣きながら歌うシーンには涙が止まらなかった。ファニーの口元の演技も凄いのだ。

ラリーに仕事に誘われ、久々に外出した時からマリアはスーパーモデル。ラガーフェルドが精魂込めてデザインした衣装(スーツなど20点以上)にアレッサンドロ・レイがヴィンテージもののシャネルをコーディネイトするという手の込んだ作業が結実したことも大きいが、ファニーの重厚かつ颯爽たるディーヴァ振りに衣装がとても映える。

劇中劇のカルメン製作シーンはゼ監督の真骨頂!長年オペラの演出・監督をこなしてきただけある。ビスコンティ監督から継がれてきた本物の貴族趣味の継承者でもあるゼ監督ゆえの細かいところまでの気配りは恐いほどだ。

ファニー・アルダン、凄い女優だ。カルメンを演じるマリアをマリア以上にマリアらしく演じなくてはならないというのは、とても難しいことだが役者冥利に尽きるのではないかと思う。

ヨーロッパ映画の肌触りは人肌のそれである。フィルムの色調、絵画的な粒状感さえアメリカ映画にはないサムシングがあるのを再認識した。

マリア・カラスの御命日は9月16日(1977.9.16)


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